【概説】今注目されるセールスイネーブルメントの役割と運営方法
目次
1 セールスイネーブルメントとは?
1.1 セールスイネーブルメントの役割について
1.2 セールスイネーブルメントが注目されている理由とは?
2 セールスイネーブルメントのアウトプット
2.1 セールスイネーブルメント・サービスの事例
2.2 セールスイネーブルメント・サービスの開発に必要な着眼点
2.3 オーケストレーションと呼ばれる概念
3 セールスイネーブルメントの立ち上げに必要な準備
3.1 トップマネジメントの関与と活動ポリシーの明確化
3.2 セールスを顧客とみなす
3.3 複数の切り口から一貫性を維持する
3.4 データマネジメント体制を確立する
3.5 営業現場のアクセプタンスを獲得する
1 セールスイネーブルメントとは?
「セールスイネーブルメント」は、英語の文字通りSales(営業)をEnable(実現化)するもので、戦略に準じた営業の仕組みを確立させ、顧客価値を拡大させながら営業成果を伸ばすための支援機能です。
昨今セールステックやリモートワークの普及に伴い、営業変革に本腰を入れる企業は増えており、営業の変革活動が活発化しています。
営業戦略や技術的戦略を実行するために、営業変革プロジェクトが相次いで立ち上がり、新たなプロセスの構築と実装に向けて多くの企業が奔走しています。組織の「戦略実行力」が競争優位を築く条件の一つとなっており、戦略実行力の優劣によって営業実績も二極化しつつあります。
1.1 セールスイネーブルメントの役割について
「セールスイネーブルメント」の役割についてもう少し、詳しく見ていきましょう。
戦略の実現に向けて、営業の意識や習慣も転換させながら新たな仕組みやプロセスに適応させ、営業が戦略に即してパフォーマンスを発揮できるように支援することがセールスイネーブルメントです。
戦略実行の障害をクリアするためには、営業の評価や教育、チームコラボレーションや顧客コミュニケーションのサポート、また営業の意識や習慣を転換させるなど、営業向けにさまざまな支援方法が考えられます。
このようにあらゆる視点から戦略実行の支援を企画、評価し、それらを統合して営業向け支援プログラムとして包括的に運営していくことで営業のパフォーマンスを向上させることが、セールス・イネーブルメントに期待される役割です。
逆に営業活動を通じて戦略の有効性を検証し、必要に応じて戦略や戦術を修正することからも、顧客価値を最大化する営業活動の実現を目指していきます。
またセールスイネーブルメントには、営業組織に変革の機運を創り出し、戦略実現性を高めるための包括的な支援プログラムを部門横断的に設計することが期待されています。
営業の変革活動は個別のプロジェクトで完結するものではなく、一貫性を保ちながら戦略の見直しやプロセスの改善を繰り返し、継続的な営業開発プログラムとして取り扱われるべきことも、セールスイネーブルメントのチームが必要とされる所以です。
1.2 セールスイネーブルメントが注目されている理由とは?
営業の変革推進を背景として、営業組織のケーパビリティを継続的に高めるための推進機能として、「セールスイネーブルメント」を立ち上げ、強化しようとする取り組みが拡大しています。
ここでは、セールスイネーブルメントが注目されている理由として、市場競争の激化とデータの可視化の2つを解説します。
市場競争の激化
営業を取り巻く現在の状況は、生産年齢人口の縮小による購買層や労働力の減少、インターネットの普及による購買プロセスの多様化、業界の垣根を超えた新規参入企業の拡大、顧客のニーズや期待の多様化 などにより市場競争は激化しています。
また、2020年は新型コロナウィルスの感染拡大によってビジネス市場は大きな打撃を受けました。人々の生活様式が一変し、多くの企業はテレワークを取り入れ、営業活動においてもWeb会議システムを用いた非対面での営業手法を取り入れる動きや、ウェビナー等を通じた見込み客との関係情勢のプロセスなどが広く導入されるようになりました。これは、コロナが終息した後でも、デジタルを活用した生産性の高い営業手法への継続的な転換の動きはそのまま定着していくでしょう。
このような市場環境の変化を前に、企業はビジネススタイルの変革が求められており、企業の収益に直接つながる営業活動はその最たるものです。市場の変化に合わせ、競争に勝つためには営業戦略・プロセス・仕組み・スキルセットを柔軟に変化させる必要があるのです。
そこで、セールスイネーブルメントによって変革実現に向けたあらゆる営業施策の実行をトータルな視点からサポートする仕組みを設計し、戦略の実践状況とそれぞれの営業施策が成果にどの程度貢献したかを数値化することで、再現性のある営業活動に流動的に取り組むことが可能になります。
このように、セールスイネーブルメントはただ単に営業活動の改善に役に立つ手法ということではなく、現代のビジネスにおいては市場競争に勝つための必須条件なのです。
データの可視化
昨今、セールステックやリモートワークの普及に伴い、営業変革に本腰を入れる企業は増えており、新たなツールの導入に端を発した営業の変革に関わるプロジェクト活動が活発化しています。
セールスイネーブルメントが普及しているもう一つの背景として挙げられるのは、これらデジタルツールの導入によって営業活動が可視化され、定量的な分析によって課題の抽出が容易になっていることです。営業活動の実態と目標の乖離がより明確化され、その差を埋めるにはどうすればいいのかが思考しやすくなっています。
セールスイネーブルメントでは、営業支援施策の実行によって得られた効果を定量的に評価し、そこからまた新しい課題をを見つけ、営業活動を促進させるための施策を継続的に立案、企画、実行していきます。このように多様な視点から、活動の促進と活動成果を向上させる営業支援の仕組みを検討し、拡張させていくことができるように全ての営業プロセスのデータを可視化して、どの時点で顧客をロスしているかを見つけやすくなるため、改善の施策が打ち出しやすくなるのです。
また、営業プロセス効率化のためにさまざまなデータの可視化をして行くうえで、マーケティング部門や開発部門などの他の部門と協力しながら進めていく必要があります。そのため、セールスイネーブルメントを促進していく中で、施策に関する共通の認識を部門間で持てるようになるのです。他部門と連携したより強い営業組織ができれば、企業にとってより良い成果がもたらされることが期待できるでしょう。
2 セールスイネーブルメントのアウトプット
セールスイネーブルメントのアウトプットは、「研修」「トレーニング」「コーチング」「ガイドライン」「インセンティブ・プログラム」「ベストプラクティス・ケーススタディ」「表彰イベント」など多種多様なコンテンツやサービスが該当します。
営業パフォーマンスを向上させるために、営業メンバーの役割や要求スキルを定義して、人財開発のロードマップを設定した上で標準コンテンツの制作や研修の企画などから活動をスタートする企業は多いようです。
セールスイネーブルメントのチームから提供されるアウトプットは、営業メンバーが抱える課題の解決に役立つ『サービス』として位置付けられ、多種多様な形態のものが企画導入されています。
これらセールスイネーブルメントのアウトプットを通して、営業から顧客に提供される価値を最大化(アウトカム)していくことが目標になります。
セールスイネーブルメントのポリシーの下、関係部署を巻き込みながらサービスを増やし、統合管理をしながら各サービスに一貫性を保ちながらスケールアップしていくことが重要です。
2.1 セールスイネーブルメント・サービスの事例
サポートする力量要素や支援の目的によって営業向けに提供されるサービスの形態や方法は全く異なるものとなります。
営業のマインドが大きく影響する活動の促進については、成果連動型の報酬プログラムや表彰イベントの企画運営なども有効なサービスとなってきます。
以下にセールスイネーブルメント・サービスの事例を幾つかご紹介します。
- データマネジメントやコーチングなど、戦略実行状況を把握するマネジメントスキルの開発
- 営業戦略の実践に求められるメソッドやスキルを習得するためのセールストレーニング
- 各種ツールや新たなルールの活用法に関わるオペレーションガイドラインの制作とレクチャー(戦術理解の促進)
- 営業活動を支援する資料やコンテンツ(事例集/ベストプラクティスなど)の開発
- 営業の行動変容を促進する報酬プログラムやアウォードイベントの企画運営
- 営業のパフォーマンス評価方法や人財配置の仕組みを改善(タレントマネジメントの導入)
- セールステックを活用した営業の効率化と有効化の推進(IT活用|業務改善)
2.2 セールスイネーブルメント・サービスの開発に必要な着眼点
セールスイネーブルメントのサービスを企画する場合に必要な主な着眼点として、大きく6つの要素に分類されます。
サービスの仕様や提供方法を企画する上で、組織に帰属する戦略や仕組みに関する要素と営業個人のキャリアに関連する要素をバランスよく検討することによって、エンゲージメントにも大きく影響することを念頭に置くことが大切です。
戦略実行力を高めるためには、営業の感情への影響を考慮するために「感情知性(Emotional Inteligence)」を踏まえて、効果的なサービスデリバリーを検討することで効果が高まります。
セールスイネーブルメントは、サービス全体の整合性を重視しつつ、支援効果を最大化するため、営業に対する効果的なコミュニケーションを計画する力が求められます。
セールスイネーブルメントは、全体の一貫性を保ちながら、個別の施策を複数の着眼点から評価して効果を最大化するように設計する力が求められます。
【組織に帰属する要素】
- ストラテジー (営業戦略や施策に対する理解や合意-ペルソナ、CX、カスタマーパス、ファネル設計、プレイブック)
- プロセス (戦略に準拠したプロセス/戦術-ITツール/カスタマーパス/ファネル構成/ガイドライン)
- コミュニケーション (情報を効果的に共有し活用するための仕組みや手法-トレーニング、コーチング、会議、説明会、プロジェクト)
【人財に帰属する要素】
- スキル (営業プロセスの実践に必要なスキル-OJT/ビデオトレーニング/ワークショップ)
- ナレッジ (営業手法を実行するために必要な知識コンテンツ⁻戦略メッセージ/ケーススタディ/競合比較/成功事例)
- マインド (習得したリソースを活用して成果を出すための行動力⁻コーチング/評価制度/インセンティブ/報奨イベント)
2.3 オーケストレーションと規模の拡大
セールスイネーブルメントでは、既に記述した通り、部門横断的な連携を通じて、営業の成長ゴールに向けて段階的に成功体験をもたらすように育成のロードマップを設計します。
各種のセールスイネーブルメント施策を包括的に管理し、一つのプログラムとして一貫性を保って運営する機能を「オーケストレーション」と言います。
セールスイネーブルメントは非常に広い範囲を対象とするため、一貫性を保ちながらPDCAの運営基盤を確立することは容易でありません。
セールスイネーブルメント・サービスも徐々に複合化していくため、導入初期段階から、サービスの有効性を検証できるよう、CRMなどと連携させて評価の仕組みを積み上げていくことが重要となります。
これは施策の効果を検証するだけでなく、セールスイネーブルメントの限られた運営リソースをできるだけ効果の高い施策へ優先配分するようにコントロールするためにも必要です。
セールスイネーブルメントの実行成果を明らかにすることで、セールスイネーブルメントのリソースを継続的に調達しながら、サービスを段階的に拡張することは、セールスイネーブルメントを主導するリーダーの腕の見せ所です。
また日本型の階層組織においては、ラインマネジメントが主体的にセールスイネーブルメントを実践できるよう、営業マネージャーにおける役割の見直しと合わせて機能設計していくことも組織開発には効果的です。
3 セールスイネーブルメントの立ち上げに必要な準備
3.1 トップマネジメントの関与と活動ポリシーの明確化
セールスイネーブルメントの活動は、マーケティング部門、カスタマーサービスなど顧客接点を持つ営業以外の組織も対象とするほか、サービスの開発においては、IT、人事、購買、事業/製品開発など全社部門横断的な連携を前提とするため、トップマネジメントの関与は不可欠となります。
変革のモメンタムを創造する上でも経営トップのコミットメントは外せません。
セールスイネーブルメントの機能をスピード感を持ってスケールアップしていくためにも、トップマネジメントにセールスイネーブルメントの必要性を承認してもらい、しっかりとした後ろ盾を得ることが重要です。
3.2 セールスを"顧客"とみなす
セールスイネーブルメントチームでは、営業を”内部の顧客”とみなして営業が抱える課題に基づいてサービスを企画開発・提供するスタンスが重要となります。
営業が顧客ニーズに即して戦略的な行動を実現するために、「どのような課題を持っているのか?」「どのような視点や知識を提供したら課題解決に寄与できるか?」ということを問い続けることが有効なセールスイネーブルメント・サービスを生み出すことに繋がっていきます。
営業職に優良なサービスを届けるためには、外部の顧客と同様に営業組織と営業職が抱える課題を十分に把握していなければなりません。
以下のような問いに対して十分な回答ができるように現場から情報やフィードバックを収集していきましょう。
- 営業戦略の実行における優先課題は何か?
- 営業戦略通りに活動が進捗しにくい要因は何か?
- 営業は成果を上げるために課題に感じていることは何か?
- 現在、営業を支援するコンテンツにどのようなものがあるのか?
- 顧客の購買プロセスにおいてどのフェーズに該当するものであるか?
- コンテンツの利用度どのくらいか?
- コンテンツの有効性についてのフィードバックはどうか?
3.3 複数の切り口から一貫性を維持する
セールスイネーブルメントは部門横断的な一貫性を保つことが大切であることは既にお話した通りですが、顧客のフェーズ(カスタマージャーニー)においても一貫性が保てていることを確認する必要があります。
顧客接点はリードの開拓から段階的に購買欲求を高めていくために、異なる価値やメッセージが提供されています。
部門ごとに対象としている顧客のフェーズや自社サービスの価値認識に違いがあるのが普通です。
部門間の異なる価値認識を統一し、顧客が辿る時間軸上に置かれた各フェーズに適合した価値メッセージを最適化するためには、個々の認識にばらつきが生じないようにがばらばらに展開されないようにセールスイネーブルメントの活動ポリシー(上位概念)を明文化して共通の価値観が持てるように日常的な提唱活動も重要です。
セールスイネーブルメントの各施策は個別で検討されることはなく、一つの変革プログラムとして包括的に管理していかなければなりません。
一貫性のあるプログラムとして包括的にマネジメントしていくことは難度は高いかもしれませんが、セールスイネーブルメントにおいてとても重要な要素です。
3.4 データマネジメント体制を確立する
データを活用した営業管理においては、顧客情報、案件|商談情報、活動情報をはじめとしてさまざまな種類のパフォーマンスデータが登録更新され、集計分析によって課題やベストプラクティスを抽出し、情報共有したり、新たな活動を計画するために絶え間なく活用されます。
セールスイネーブルメントの立ち上げにあたっても、売上高、受注率、商談数、顧客情報、商談履歴、新人営業マンへの教育・研修実施履歴など、さまざまなデータを蓄積し分析するデータマネジメント体制を構築することが不可欠です。
セールスイネーブルメントは、蓄積されたデータを分析して課題の抽出と施策の立案を行うと共に、既に営業に提供したセールスイネーブルメントサービスがどのように営業成果に効果を及ぼしているかを評価します。
施策の有効性を評価する仕組みはセールスイネーブルメントにとっても重要な要素となります。
したがって、まずはデータマネジメントの体制をある程度構築してあることがセールスイネーブルメントを機能させる前提条件となります。
3.5 営業現場のアクセプタンスを獲得する
顧客のニーズや競争環境が目まぐるしく変化する市場において、セールスメンバーにおいても常に新たな行動やスキルが求められることとなります。
営業組織においては戦略|戦術の変更や追加を受け容れ、試行錯誤を繰り返しながら課題に対応し続けるための活動を継続していくことが必要となります。
従来の思考範囲を超えて新たな価値を創出させることを目標に据えながらチャレンジを繰り返す行動が求められます。
さらに短期間で新たな取り組みを完遂させるために、プロジェクトのサイクルを短くし「アジャイル」な取り組みを実現するために、関係者のエンゲージメントを高めるための仕組み創りは欠かせません。
組織風土を変えることにも繋がる本ゴールは非常に難度が高く、セールスイネーブルメントの機能が成熟しつつあるイメージです。
営業組織向け
営業個人向け